詩にゆくものへの祈り5

團子蟲と國家

 

 

 

 

男はダンゴムシをあつめると決めた

 

この世のすべてのダンゴムシをあつめたかった

 

手はじめに家の庭をさがした

 

ていねいにひとつひとつしらみつぶしにあつめた

 

家の風呂釜がいっぱいになるほどあつまった

 

男は夜寝るたびにダンゴムシがうごめくノイズに悩まされた

 

男はとなりの家のダンゴムシをあつめはじめた

 

家主は庭へ入ることを許可したが風呂釜はかさなかった

 

男は家に風呂釜を買い足してダンゴムシをあつめつづけた

 

家に三十もの風呂釜がつまれるころに町の名前がかわった

 

五十もの風呂釜がつまれるころには国の主がかわった

 

八十をかぞえるころには国境がなくなった

 

やがて風呂釜は百をこえた

 

男は風邪をこじらせあっけなく死んだが彼の家にはダンゴムシが生きていた

 

ある日使者がおとずれてダンゴムシを燃やした

 

香ばしいにおい町にただよった

 

翌日からひとびとはダンゴムシをさがした

 

けれどどこにもダンゴムシがみあたらなかった