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諸説イントラセレブラルソィル1

諸説イントラセレブラルソィル

作:奇妙フイルム

 

 

1.
一月十一日。月の自転が変動した。その日は満月だった。

うさぎのもちつきの絵柄がかわった。

一月十二日になると、ダークサイド・ムーンが恥ずかしそうに俯いたあとはにかんだ。

まるで、生まれたての赤子のしりっぺたみたいだった。

月の裏はつるっとしている。

そういえば鈴カステラに似ている。

これによって人類は月へは行っていないことが露呈した。無人探査機さえも。

モノリスなどもってのほかだ。

半世紀以上前からついていたアメリカの嘘に各国の批判が殺到する。

世界大統領を目指していたアメリカ大統領は他人事だと口笛を吹いた。

「そもそも俺がしたことじゃねえし」的な態度を貫いた。

威厳のあるりこうな我らが大統領だとアメリカ国民は鼻高々だった。

その口笛のオリジナルメロディが国内で流行。SNSなどで拡散。

やがて世界中で流行し、あらゆる場所で口笛が鳴り響いた。

すると世界に平和が訪れた。地球上で一切の戦争が消滅したのだ。

口笛吹いて空地へ行った~

的スタンスでいると最終的にはみんな仲間だ仲良しなんだ~

的な結末になるということだろう。

知らんけど。

 

「世界平和おめでとうございます」

八年間母親に虐待を受けつづけた末、言葉を忘れた十二歳の少女は見知らぬ人に突然そう口走った。
少女の名は東澄江。住まいは江東区で、相手は近所に住む住所不定無職、自称「ロリロリサンダー」持永謙一だ。

持永は自らをロリロリサンダーと名乗り、日中徘徊し、幼女に「こんにちわ」と挨拶する。

職質後派出所で「ローリング、ローリング、サンダーの略だ」と持永。「発音がネイティブすぎたのだな」と説明した。

持永が澄江に「こんにちわ、ロリロリサンダーです」と挨拶すると、

彼女は「世界平和おめでとうございます」と八年ぶりの笑顔とともに発狂した。

澄江は泣き叫び、頭を掻き毟ったあと卒倒した。崩れ落ちる目の前の少女を持永は強く抱きしめた。

「彼女が壊れてしまいそうだったから」と持永は釈明した。

彼を職質した心ある巡査長は、「今後ロリロリサンダーと名乗らなければいいのでは?」とまっとうなアドバイスを与えた。

その日から持永は「ロリロリサンダー」を封印した。

 

戦争と呼ばれる争いが最後にアフリカの某国で終結したとき、未曽有の世界大恐慌が押し寄せた。

職にあぶれて都会では暮らせなくなった人々は作物を育てられる土地へと向かった。

東京はいまでは閑散としている。まるでアメリカのデトロイトのようだ。

しかし目図儀助はデトロイトへは行ったことがない。

映画『8マイル』や『イットフォローズ』、『ドントブリーズ』にでてくる雰囲気といえばわかってくれるだろうか。

目図は映画をほとんど見たことがない。特に洋画は。字幕を追うと疲れる。目頭を揉む。

だからといって眼精疲労が治まるわけがない。おまじないみたいなものだ。

彼はふと考える。

おまじないがない世の中で人々は、きっと疲弊してしまうだろう。

おまじないっていいよね。

目図はつぶやいた。

 

つづく