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諸説イントラセレブラルソィル3

諸説イントラセレブラルソィル

作:奇妙フイルム

 

 

 

3.

バンカー・パレスホテルでは、四季の割合を決める会議が行われていた。
出席者は、春担当の柊氏、夏担当の桜井氏、秋担当の葉月氏、そして彼らのなかでもっとも体格のいい冬担当の綜馬氏の四名である。
バンカー・パレスホテルの二十二階「季節の間」はバンケットとしては小規模だが、
日本固有種である樹齢百二十年の唐松を職人によって手作業で伐採された切り株が円卓として中央に鎮座しているから圧巻だ。
四人は円卓にバランスよく座らない。前年の割合を円グラフにしたような位置に座るのだ。
二十世紀が終わるまでは、大まかには春二割、夏三割、秋二割、冬三割(2:3:2:3)といった具合だった。
地球温暖化だからといって、葉月氏の季節を短くしていくのって、芸がないよね」
開口一番、綜馬氏が円卓の中心に盛られた色とりどりのマカロンをつぎつぎに頬張りながら言った。
まるで綜馬氏の担当する季節の期間はここ百年間ずっと変わららないといった口ぶりだ。
「今年も一対五対一対三のくらいの割合で行こうよ」
柊氏と葉月氏が使えるテーブルのスペースは狭く、桜井氏は円卓のほぼ半分を使用できる。
柊氏と葉月氏はラップトップパソコンを置いたら、コーヒーカップを置くスペースさえままならない。
カップが少しでも桜井氏のエリアをまたぐと、神経質そうなメガネの奥の瞳がぎろりと光るのである。
カロンはフランスの代表菓子だと思われているが、実際はイタリアが発祥だとあまり知られていない。
綜馬氏などは、どこの国のお菓子なのかも知らない。そもそも興味ないからだ。
「マカロンって、どんなに食べてもものたりないよね」綜馬氏は言ってから、緑色のマカロンを口に放り込んだ。

「とどのつまりは、綜馬氏は保身のためだけに葉月氏を出しにしているだけだろ」厳密に言えば最も期間が短い柊氏が咳込むように言った。
ちなみに柊氏は口の中の水分を全部持っていかれるマカロンが嫌いだ。
カロンを旨そうに喰らう綜馬氏の存在も気に入らない。
「綜馬氏こそ、日本人から嫌われているじゃないですか」
「季節がね、季節として」と葉月氏が小声で捕捉した。
「日本人は寒いのが苦手なだけで、僕のおかげでさまざまなご利益があるんですよ」綜馬氏は青色のマカロンを口に入れた。「お鍋は美味しいし、恋人たちだって寄り添えるじゃないですか。桜井氏だって好かれているとはいえ、過剰な接待がたたって、老人が熱中症で亡くなったり、北極の氷が溶けたりして。あなたは不審がられていますよ」
「気温ね、気温がね」と葉月氏は捕捉する。
「今シーズンは、サプライズも含めて、春夏秋冬をきっちり四分割しますか」と柊氏が言った。
「三月から五月が春、六月から八月が夏、九月から十一月が秋、十二月から二月が冬でキッチリ四分割でもいいのかもしれないな。僕も譲歩しますよ」綜馬氏が言った。
「いいですね。春は芽吹いて過ごしやすい気温で、湿度もほどよい時期が三か月もつづくなんて」と珍しく柊氏が綜馬氏に同調した。
「梅雨が一か月間あって、暑いのだけれど外で遊びたくなるような気温が二か月あって」と桜井氏。
「湿度も気温も下がって、旅行も食事をするのも楽しくて、紅葉が見られる期間が六週間以上つづいて」と葉月氏
「ぐっと寒くなるけど、春は三か月後に必ずやって来るから、寒さも気にならない。そんな一年間で行こうよ」綜馬氏は最後のマカロンを飲み込んで笑った。
「でもそれって普通のことですよね」と葉月氏が捕捉した。

 

 

つづく