十徳男

期待はあった。そもそも『キャストアウェイ』や『流されて』『蠅の王』などの無人島漂流サバイヴはジャンル的に好物だ。

無人島に流された若者が偶然流れ着いた死体を「十徳ナイフ」のように用いて生き残るサバイバル映画だと思っていた。

鑑賞後まったく別次元の感想を持った。

スイス・アーミー・マン』。

タイトルは完全なミスリードだった。

オープニングの小さな無人島は主人公の孤立した現状を表現した。

死体を見つけてから大きな島に流れ着くのは心にゆとりができた現れだろうか。

実際は現場は無人島でも孤島でもなくストーカーしていた好きな女の自宅の崖下の川辺で当てつけのように自殺しようとしていた主人公が偶然流れついた死体と戯れていたという話。完全なるサイコパス映画。

なのにどうして鑑賞後は腑に落ちてしまったのだろう。

人前で屁さえできない内向的な主人公が逮捕された時の人前での全力放屁。

劇中すべて妄想だったはずの死体のくだらない放屁ギャグに対して願えば叶う的感動に仕上げ「ようとし」た監督のピュアなアプローチ。

正直。死体がしゃべりはじめて間もなく途中退場か途中爆睡かもという不安が襲ってくる。と同時にどういう着地をするか淡い期待も湧き出る。

もとを正せばサイコパスによるパラノイドだから何やってもいいじゃんなはずなのに。

なのだが見終わったあとオープニングで海に浮遊していた数々の手書きメッセージは彼の必死な社会に対するSOS信号だったことがわかる。

そして小さな無人島での自殺未遂は主人公がひとりで社会に取り残された現実をこれみよがしにわかりやすく表現していたという事実。

コミュ障による苦悩からやがて一方通行の恋や父親との確執に着地点を見いだせた孤独な男のハッピーエンディングでまさに腑に落ちたのだ。

 

自分はとある創作準備にどんずまりつづけていた。脚本が先に進まずにいた。

これでいいのか本当に。これまでの経験では観たこともない構成を拙い脚本に落とし込もうとしていた。

ところがこの「十徳男」のおかげで自分は間違っていなかったという確信が持てた。

 なんだ現実では俺を助けているじゃん。素晴らしい。

 

 

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 ポールダノといったらやっぱりこれでしょう。

 

 

 

 いいね。十徳ナイフ。

 

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 いやらしい。子供ながらに思った。素晴らしエロし。