諸説イントラセレブラルソィル2

諸説イントラセレブラルソィル

作:奇妙フイルム

 

 

2.

彼女はとてもゆっくりと笑う。

一度なにかを噛みしめるように。

まるでなにかを思い出すように。

まるで笑うことがいけないかのように。

彼女は笑うことを躊躇している。

けれどきっぱり笑うと大きな口で綺麗な歯並びのそれを見せつけながら声をあげる。

彼女を笑かせたい。

彼女の笑い声を聴きたい。

彼女が笑い終えたあとに見せる後悔を宿した瞳を覗きこみたい。

目図はいつもそう思う。

 

彼女は森のなかでそれを発見する。

栖留周子は樹洞に宿る生命を見つめる。

単独登山の途中で山道からはずれてしまった。

さほど高くもない山だしさほど深くもない森なので不安はなかった。

スマホGPS機能だってある。

Googleマップだって閲覧できる。

最終的にレスキューに電話すればいい。

沢沿いにしばらく歩くと突然電波が通じなくなった。

GPSGoogleもレスキューも皆無。

すると急に不安になり泣きたくなった。

足も前に進まない。

「おい」

背後から怒鳴り声が聴こえた。野太いが透きとおった声だった。

振り返ると目の前に樹洞がのぞいていた。

樹洞から生命が溢れていた。

それはとても体液に似ていてにおいはないが濃厚な現実が垣間見えた。

周子は生命にふれてみる。液体に見えるがそれは力強く押し返してくる。

周子は我慢強く指を押し入れるとそれをひとすくいする。

指先で生命は揺れる。

口にふくんでみる。

彼女はその場に倒れたまま動かなくなった。

 

二十二か月後に子供が生まれる。

名前をつけたくはない。

しかし名前をつけないと人間社会にまぎれられないというのでしかたなく名前をつける。

子供は成長する。しかし実態がない。

彼女にしか見えない。

子供はまわりのおとなたちから声をかけられることはない。

だから誘拐されたりいたずらされたりする心配はない。

彼女は安心して子供を育てることができる。

やがてその子はintracerebral soilへとむかう。

 

つづく