四季の死期・・・

『ボラッド』は現実世界で狂気じみたフェイクがアンモラルを手土産にリアルなモラルを破壊するドキュメンタリーだった。

 

フェイクが現実を凌駕するさまを延々とスクリーンに映し出し観る者を圧倒する。

偽善の暴露。

無知識の露呈。

大人のチ●コが人前で露出。

 

昨今ドキュメンタリーには完全なドキュメンタリーなど存在しないといわれている。

演出や編集が介入する時点でフィクションであると認識するようになった。

 

知り合いにテレビのドキュメンタリーを演出する現場ディレクターがいて実際ノンフィクションなど存在しないといいきった。

 

だがボラッドは完全なドキュメンタリーなのだ。

はじめからこれはフィクションですといいながら現実をドキュメントする。

 

『シーズンズ 』は真逆だった。

ネイチャードキュメンタリーと銘打って公開した映画。

自分は大自然のきびしい環境で動物が右往左往する映像が好物なので観ることにした。

四季折々の圧倒的な自然。

自然界を生きる動物たち。

奇跡のカメラワーク。

 

微妙なナレーション・スキルの女優と笑福亭の軽妙な語りは許容範囲。

 

が。

あれれ人間が出てきたぞ。それも原始人。

予備知識なく観はじめたため勝手に現代の動物界のドキュメントだと思いこんでいた。

サブタイトルの「2万年の地球旅行」を見逃していた。

二万年前の地球からはじまって現代の地球になる際に人間が平地の森を伐採し動物たちが山へと追いやられて生活が困難になったんだぞ人間どもゆるさん。

だけどがんばって共存していこうね。という作り手のエゴの押し売り映画だった。

途中でエコロジーな説教がはじまるのも不快だった。

最終的には動物たちも人間をゆるしているんだ的な頭の悪い構成となっていた。

 

中盤を過ぎたころ完全に人間と動物が演出どおり競演している。

それもドキュメンタリーの体をなしたまま。

 

気のせいだろうか。自然の風景がセットに見えてくる。

動物たちがプロダクションに所属している俳優に見えてくる。

 

伝説のドキュメンタリー映画『ゆきゆきて、神軍』で奥崎謙三はカメラがまわっているときだけテンションをあげていたという。いわばカメラの前で演じていた。ディレクターの期待に答えるために。

 

矛盾を承知でいう。

完全なドキュメンタリーなど存在しない。

あえてフィクションをドキュメンタリーに放りこむと完全なドキュメンタリーとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆきゆきて、神軍 [DVD]

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詩にゆくものへの祈り7

籠目の数式

 

 

 

 

今日籠にいれていた鳥が逃げた

 

しばらく部屋をばたついたあと窓の隙間から空へ飛んでいった

 

俺はしばらく鳥が消えた空を見あげていた

 

やがてなぜ空をながめていたのか思い出せなくなった

 

彼女が空にむかって鳥のなまえをよんだ

 

俺はその鳥になまえをつけたおぼえはない

 

籠の扉はあけておいたし窓はずっと開いたままだ

 

彼女は俺を罵倒する

 

あんなにかわいがっていたのに

 

そもそも彼女の鳥ではない

 

ましてや俺の鳥でもない

 

しばらくして鳥がもどってきた

 

なにごともなく籠にもどってきた

 

俺は明日また鳥を空へ放つ

詩にゆくものへの祈り6

偽善の弓

 

 

 

 

ありふれたなんの変哲もない土や泥のにおい

 

朝露にぬれて艶る青葉のかほり

 

君は見やったあとにしばらくしてから顔をゆがめる

 

鼻をつまんで不快そうにくさいとつぶやいた

 

はじめ君のしぐさがなんことについてかわからなかった

 

やがてそのしぐさがなんのことか理解できた

 

だからといってとくに悲しいとは思わない

 

ただし君のことをこれっぽっちも理解できない

 

種類がちがう構造が別のいきものに見えた

 

なぜ君をそういうふうに思えるのは

 

ずっと昔に君のことを諦めていたからだろう

 

日々のなかには踏みしめる土もなく手で触る草木もない

 

理路整然でシステマチックな毎日がある

 

無駄もなく時間も短縮されているからたちどまってよそみをする必要がない

 

無味無臭でシステマチックな毎日がある

 

ところで感ちがいしないでほしい

 

自然推奨テクノロジー蔑視では決してない

 

たとえばとある夫婦が都会をすてて一念発起で沖縄に移住

 

一年後には馴染めずに都会へとんぼがえり

 

その土地にのこされた新築

 

そこには以前自然の木々が生えていた

 

たちどまって一息ついてながめればそこには

 

花壇の花

 

空の雲

 

夜の星

 

とにかく君にはバランスが重要だ

 

諦めずに根気づよく明日君にそう話すことに決めた

 

 

 

 

 

 

詩にゆくものへの祈り5

團子蟲と國家

 

 

 

 

男はダンゴムシをあつめると決めた

 

この世のすべてのダンゴムシをあつめたかった

 

手はじめに家の庭をさがした

 

ていねいにひとつひとつしらみつぶしにあつめた

 

家の風呂釜がいっぱいになるほどあつまった

 

男は夜寝るたびにダンゴムシがうごめくノイズに悩まされた

 

男はとなりの家のダンゴムシをあつめはじめた

 

家主は庭へ入ることを許可したが風呂釜はかさなかった

 

男は家に風呂釜を買い足してダンゴムシをあつめつづけた

 

家に三十もの風呂釜がつまれるころに町の名前がかわった

 

五十もの風呂釜がつまれるころには国の主がかわった

 

八十をかぞえるころには国境がなくなった

 

やがて風呂釜は百をこえた

 

男は風邪をこじらせあっけなく死んだが彼の家にはダンゴムシが生きていた

 

ある日使者がおとずれてダンゴムシを燃やした

 

香ばしいにおい町にただよった

 

翌日からひとびとはダンゴムシをさがした

 

けれどどこにもダンゴムシがみあたらなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩にゆくものへの祈り4

屍の戯言

 

 

 

 

 

彼女はときどき笑顔で踊りだした

 

彼女はうれしくなると踊りたくなるようだ

 

彼女はうれしくなると自分を傷つけたくなるようだ

 

彼女はかなしくなると笑顔になるようだ

 

彼女はたのしいことがあるとさみしくなるようだ

 

彼女はさみしくなるとたのしくなるようだ

 

彼女には彼女を愛する家族がいた

 

彼女にはやさしいボーイフレンドがいた

 

彼女を慕う男性がいて彼女を妬む女友達もいる

 

彼女はなにもほしくなかった

 

だから笑顔で踊るのだといった

 

だから生きたくないといった

 

詩にゆくものへの祈り3

思想の轍

 

 

 

 

右にいるのは喧嘩しているカップル

 

左にはおだやかに話す夫婦がいる

 

カップルは主張をまげずにいられない

 

夫婦はなにかを諦めている

 

カップルはなんども別れをくりかえしもとにもどる

 

夫婦は離れないがとくに必要だと感じていない

 

カップルは過去のあやまちを認めないで忘れる

 

夫婦は終焉までいっしょだが補うことだけを目的としている

 

右には主張だらけのカップル

 

左には諦めた夫婦

 

右も左も自己利益のためにひとりではいられない

 

ちょうど真ん中にいる君は孤独におびえている

詩にゆくものへの祈り2

刻の棲家

 

 

 

小さくて軽くて早くて飽きない

 

大きくて重くて遅くていらだつ

 

飽きないけどいくらでもかわりがいる

 

いらだつけどはなれたくない

 

ひとりでも寂しくないからひとりでいい

 

ひとりでは寂しいから誰かを想う

 

寂しくないのにひとりだと知られたくない

 

寂しいから誰かを求めて悲しむ

 

小さくて軽くて早くておいしい

 

大きくて重くて遅くておいしい

 

おなじおいしいなら小さくて軽くて早いほうがいい

 

おなじおいしいなら大きくて重くて遅いほうがいい

 

おなじ寂しいなら小さくて軽くて早いほうがいい

 

おなじ寂しいなら大きくて重くて遅いほうがいい

 

おなじ場所におなじ形の時計がならんでいる

 

どちらもちがう時を刻んでいる

 

構造はおなじ

 

けれど部品が欠損している

 

欠損しているほうが時を早くすすめることができる

 

欠損しているのは歯車なのだがそれがどの分部を動かしているのか忘れてしまった

 

忘れたのはつい最近なのにまったく思い出せない

 

だからそれも忘れよう

 

そうすればほんとうは遅いことに気づかないでいられるから